「普通」に振る舞えない場所がある:特定の場面で生じる強い不安と孤立
この「静かなる叫び」のインタビューでは、特定の場面で強い不安を感じ、そのために日常生活や人間関係に困難を抱えている山田さん(仮名、40代)にお話を伺いました。外からは見えにくいこの困難が、日々の暮らしにどのような影響を与えているのか、そして山田さんが抱える思いについて、静かに語ってくださいました。
特定の場所、特定の場面で襲い来る不安
山田さんは、普段は比較的落ち着いて過ごしていらっしゃるそうです。しかし、特定の場所や状況に身を置くと、突如として強い不安に襲われると言います。
「例えば、会議で何か発言しなければならない時。あるいは、電車やバスなど、すぐに降りられないような乗り物に乗っている時です。普段は気にしないような、人からの視線や評価が急に怖くなって、心臓がバクバクして、息が苦しくなることがあります」
これらの場面では、身体的な症状を伴うこともあるそうです。手足が震えたり、めまいがしたり、時には冷や汗が止まらなくなったりすることもあると言います。これらの症状が出ると、「このままどうにかなってしまうのではないか」という強い恐怖心に囚われてしまうと、山田さんは語ってくださいました。
回避が連鎖する日々
このような強い不安感を経験すると、自然と次に同じような状況になることを恐れ、回避しようとする行動が生まれると山田さんは言います。
「一度ひどい発作のようなものを経験してしまうと、次にまた同じ目に遭うのではないかという予期不安が強くなります。だから、会議で発言が必要な場面はできるだけ避けるようになりましたし、人が多い場所や、途中で抜け出しにくい場所へ行くのを躊躇するようになりました」
この回避行動は、日常生活に様々な影響を及ぼしています。仕事では、本来であれば参加すべき会議を欠席したり、発言の機会を失ったりすることもあります。プライベートでは、友人と会う約束を直前に断ってしまったり、行きたい場所があっても特定の交通手段を使わなければ行けないというだけで諦めてしまったりすることも増えたそうです。
「『なぜ自分はこれができないんだろう』と、落ち込むことも多いです。周りの人は普通にやっているように見えるのに、自分だけが特定のことに対してこんなにも強い恐怖を感じてしまう。それが、とても孤独に感じられるんです」
理解されにくい苦悩
この困難を周囲の人に理解してもらうことの難しさについても、山田さんは触れてくださいました。
「勇気を出して親しい友人に話してみたこともあるのですが、『考えすぎだよ』とか『誰だって緊張することはある』と言われることが多かったです。悪気がないのは分かっているのですが、自分にとっては命綱を握られているような、それくらい切実な苦しみなので、軽く受け流されてしまうと、もう誰にも話せないと思ってしまいます」
このような経験から、山田さんは次第に自分の内面の苦しみを隠すようになり、その結果としてさらに孤立感を深めてしまったと言います。外からは何も問題なく「普通」に生活しているように見えても、内側では常に特定の不安と戦っている。その見えない壁が、他者との間に距離を生んでしまうのだと、静かに語ってくださいました。
小さな一歩と未来への希望
現在、山田さんは自身のこの困難と向き合うために、少しずつではありますが変化を試みているそうです。
「すぐに劇的に改善するとは思っていませんが、例えば、会議で発言する練習を家でしてみたり、短い時間だけ電車に乗ってみたり、小さなステップを踏むように心がけています。あとは、同じような経験を持つ人のブログなどを読むこともあります。自分だけじゃないんだ、と思えるだけで、少し心が軽くなる時があるんです」
また、信頼できる家族や友人に、自分の感じていることを具体的に伝える練習もしていると言います。全てを理解してもらうことは難しくても、「話を聞いてくれる人がいる」という事実が、大きな支えになっているそうです。
未来について尋ねると、山田さんは少し遠い目をしてこう語ってくださいました。
「いつか、特定の場面で不安を感じることなく、もっと自由に、心穏やかに過ごせるようになりたい。特別なことでなくていいんです。ただ、他の人と同じように、行きたい場所に行ったり、言いたいことを言ったりできるようになりたい。それは、もしかしたらとても遠い目標かもしれません。でも、小さな一歩を重ねていけば、いつかきっとその場所に近づけるのではないかと思っています。そして、同じような困難を抱える人が、一人で苦しまなくて済むような社会になってほしいと願っています」
山田さんの語る言葉には、特定の場面で生じる不安という見えない壁に立ち向かう静かな強さと、理解を求める切実な願いが込められていました。その声は、同じように社会の片隅で孤立を感じている人々の心に、静かに響くのではないでしょうか。