見えない疲労にどう向き合うか:人より回復に時間が必要な私の声
「普通」のペースについていけない、見えないエネルギーの壁
社会の中で日々を過ごす中で、私たちは様々なエネルギーを消費しています。仕事や勉強に集中するエネルギー、人との交流で使うエネルギー、そして身の回りのことをこなすためのエネルギーです。しかし、そうした当たり前の活動によって、他の人よりもはるかに早く、そして深く疲労を感じてしまう人々がいます。その疲れは外見からは分かりにくく、理解されにくいがゆえに、当事者を深い孤独に追いやることも少なくありません。
今回は、見えない疲労と向き合いながら生きるAさん(30代)にお話を伺いました。Aさんは幼い頃から人一倍疲れやすいと感じていたそうですが、その原因が明確になったのは大人になってからのことでした。
「子どもの頃から、学校から帰るとすぐに寝てしまったり、週末は家からほとんど出られなかったりしました。周りの友達は放課後も元気に遊んでいるのに、自分だけがついていけないような感覚でしたね」とAさんは振り返ります。当時は体力がないだけだと思っていたそうですが、大人になるにつれて、その疲れやすさは単なる体力不足ではないと感じるようになったと言います。
日常生活に潜む「疲労トリガー」
Aさんにとって、日常の様々な場面が疲労の引き金となります。
「特に、予期しない出来事や変化が重なると、あっという間に電池が切れてしまう感覚です。例えば、通勤途中で電車が遅れたり、職場で急な頼まれごとがあったりすると、その対応で心身ともにエネルギーを大きく消耗してしまいます。一度疲れてしまうと、そこから回復するのに人よりもずっと時間がかかると感じます。」
また、人との関わりもAさんにとっては時に大きな負担になることがあります。
「静かな場所で一対一でじっくり話す分にはそれほどでもないのですが、大人数の会議や、賑やかな場所での交流は、それだけで非常に疲れます。たくさんの情報が一度に入ってくる感覚で、処理しきれなくなってしまうんです。周りの人は楽しそうにしているのに、自分だけがその場にいるだけでへとへとになっているのを感じると、孤立感を覚えることもあります。」
こうした疲労は、単に体がだるいというだけではありません。Aさんは、疲労が溜まると思考がまとまらなくなったり、普段は気にならないような小さな物音や光がひどく不快に感じられたり、感情の波が大きくなったりすると言います。
回復に要する時間とその代償
Aさんが抱える困難のもう一つの側面は、「回復に時間がかかる」ことです。
「健常と言われる方であれば、一晩眠ったり、少し休息を取ったりすれば回復するような疲れでも、私の場合、数日、時には一週間近く回復に時間がかかることもあります。週末を丸々寝て過ごしても、月曜日の朝にはまだ疲れが残っている、ということがしょっちぎゅうでした。」
この「回復に時間がかかる」という特性は、社会生活において様々な困難を生じさせます。
「一番は、予定が立てにくいことです。体調が良い時に頑張りすぎると、その反動でしばらく動けなくなってしまいます。友人との約束や、職場の飲み会なども、直前まで体調が読めないので断ることが増えました。そうすると、だんだん誘われなくなったり、付き合いが悪いと思われたりするのではないかという不安を感じます。」
また、疲れやすいこと自体を周囲に理解してもらうことの難しさも感じています。
「『気の持ちようだよ』とか、『もう少し頑張れば大丈夫』と言われると、本当に辛いです。怠けているわけでも、努力が足りないわけでもないのに、自分の困難が『甘え』のように捉えられてしまうのは、見えない疲労ならではの苦しさだと思います。」
自身との向き合い方、そして社会へ
こうした見えない疲労と向き合う中で、Aさんは自分自身の「エネルギー」の使い方や回復に必要なことについて深く考えるようになったと言います。
「以前は、周りに合わせようと無理をして、結果的に動けなくなって自己嫌悪に陥る、というパターンを繰り返していました。でも今は、自分の体と心に正直になることを心がけています。疲労を感じる前に休息を取る、無理な誘いは断る、一人の静かな時間を意識的に作るなど、自分を守るための工夫をするようになりました。」
もちろん、そうした自己管理だけでは解決できない社会的な壁も存在します。しかし、自身の特性を受け入れ、周囲に少しずつ伝えようとすることで、理解を示してくれる人もいることを経験しました。
「この疲れやすさは、私という人間の一部なのだと今は思えるようになりました。無理をせず、自分のペースでできることを見つけていきたいです。そして、私のように見えない疲労を抱えている人が、怠けているわけではない、回復には時間が必要なのだということが、少しでも社会に理解されたら嬉しいです。」
Aさんの言葉からは、見えない困難を抱えながらも、自身の内なる声に耳を傾け、社会との折り合いをつけながら前向きに生きようとする強さが感じられました。見えにくい疲労は、当事者だけでなく、その周囲の人々にとっても理解が難しい課題かもしれません。しかし、Aさんのように、自身の経験を言葉にしてくれる人がいることで、私たちはお互いの見えない困難に対する理解を深め、より温かい社会を築くための一歩を踏み出すことができるのではないでしょうか。