眠りにつく困難、目覚める困難:見えない体内時計と社会のズレ
「夜になっても頭が冴えてしまって、なかなか眠りに入れない。」
「目覚まし時計を何個かけても、朝、時間通りに起き上がることができない。」
多くの方にとって、眠り、そして目覚めることは、ある程度自分でコントロールできる当たり前の行為かもしれません。しかし、私たち「静かなる叫び」が今回お話を伺った当事者の方にとって、それは日々の生活における、小さくも決して軽視できない困難の一つでした。
私たちは今回、幼い頃から睡眠のリズムに悩みを抱えてきたAさん(仮名)にお話を伺いました。Aさんが感じる「眠り」と「目覚め」の困難、それはどのようなものなのでしょうか。
夜になっても訪れない眠気
Aさんは、夜遅くまで全く眠気を感じないことが多いと言います。
「皆が寝静まった深夜になっても、体は疲れているはずなのに、脳だけが活発に働いているような感覚なんです。ベッドに入っても、考え事が止まらなかったり、過去の出来事を思い出したりして、なかなか眠りに入れません。」
たとえ眠りにつけたとしても、眠りは浅く、少しの物音でもすぐに目が覚めてしまうことも少なくないそうです。睡眠時間を確保しようと、早くベッドに入っても、結局眠りにつけるのは日付が変わってずいぶん経ってから、という日が続いていると言います。
朝、起き上がれない体
そして、Aさんが日々の生活で最も大きな困難として挙げるのが、「朝、時間通りに起きられない」ことです。
「目覚まし時計を複数セットしても、スヌーズを繰り返してしまうか、全く気づかないこともあります。意識はあっても、体が鉛のように重くて、どうしても布団から出られないんです。たとえ無理に起き上がれても、しばらくは頭がぼうっとして、すぐに活動を始めることができません。」
この「起きられない」という困難は、単に朝の支度が遅れるというだけにとどまりません。
日々の生活への影響と社会とのズレ
「遅刻をしてしまったり、午前中の仕事や授業に集中できなかったりすることが日常的です。周りからは『夜更かしをしているんだろう』『自己管理ができていない』と思われているようで、それがまたつらいんです。説明しようにも、うまく言葉にできませんし、『眠れない、起きられないのがそんなに大したことか?』と軽く見られているように感じてしまうこともあります。」
Aさんは、この睡眠に関する困難が、自己肯定感の低下にも繋がっていると感じていると言います。
「皆が『普通』にできていることが自分には難しい、という事実が、自分が劣っているような気持ちにさせてしまうんです。特に、社会の仕組みは朝早くから活動を開始することを前提に作られていますから、自分の体内時計と社会のリズムとの間に大きなズレがあることを日々痛感します。」
この見えないズレは、約束の時間に間に合わないことへの不安、朝早い会議や集まりへの強いストレスなど、Aさんの生活の様々な側面に影響を与えているようです。疲労が蓄積し、人との関わりを避けてしまうこともあり、それが孤独感を深める原因にもなっています。
困難との向き合い方、そして希望
Aさんは、この困難に対して、完全に解決することは難しくても、自分なりの向き合い方を見つけようと努力しています。
「まずは、自分自身の体質やリズムを理解しようとしています。無理に社会の基準に合わせようとせず、自分の体が求める休息のタイミングを少しずつでも尊重できるように意識しています。また、信頼できる友人や家族に正直に話してみることで、少し心が軽くなることもありました。」
医療機関への相談も検討していると言い、「専門家の方の力を借りることで、何か改善の糸口が見つかるかもしれない」と、控えめながらも希望を口にされました。
最後に、Aさんは同じような困難を抱える方々、そして周囲の方々へ、次のようなメッセージをくださいました。
「睡眠の困難は、単なる『怠け』や『夜遊び』ではないことを知っていただきたいです。私たち自身も、好きでこうなっているわけではありません。もし同じように悩んでいる方がいたら、自分一人ではないことを忘れないでほしいです。そして、もし周囲に『朝が苦手』な人がいたら、頭ごなしに責めるのではなく、『何か困難を抱えているのかもしれない』と、少しだけ想像力を働かせていただけると嬉しいです。小さな理解が、私たちにとっては大きな救いになりますから。」
Aさんの言葉からは、見えない体内時計と社会のリズムのズレの中で生きる葛藤、そして、理解を求める静かな願いが伝わってきました。この声が、読者の皆様にとって、共感や理解を深める一助となれば幸いです。